イノベーションを、組織の中で実現するための方法論を紹介したい。
イノベーションは、単に創造するだけでも新しいだけでもない。荒唐無稽の突然変異のように扱われていたイノベーションを、組織の中で実現するための方法論を紹介したい。
片方だけなら簡単だ
アイデアの結果がイノベーション、つまり現実世界の変化のことである。例えば、環境問題が叫ばれる中でガソリン以外の動力で車が走ればいいというのはアイデアである。そのアイデアを複数の動力源を持つハイブリッドカーとして具現化し、ある自動車は以前よりも環境に及ぼす影響が少ないという現実の変化が起こったことがイノベーションと言える。つまり、企業がイノベーティブな製品やサービスを生みだすには、「アイデア」と「具現化」という2つのプロセスが「現実世界をより良くする」という大枠を押さえなくてはいけない。この一つ一つの要因を考えていくことで、イノベーションに取り組む組織が可能になる。
アイデアと具現化という企業内部プロセスにおいて、どちらか片方だけでイノベーションと呼んでいる場合も少なくない。この両方を実行するのは難しいが片方ならば比較的簡単なことだ。
単なるアイデアを出せといわれれば簡単だろう。空を飛ぶ車があればいいとか、病気にかからなくなる薬があればいい、もっと美味いコーヒーを広いラグジュアリーなスペースで飲めるカフェがいいとか、単なる欲望を言えばいくらでも出てくる。
また、企業というのはアイデア無しの具現化には柔軟に取り組むことができる。つまり、他人がアイデアを元に具現化したものを、自分は具現化するだけの場合は、同じ事をやればいいので簡単なことだ。ある銀行が夜9時まで使えるATMを設置したとすると、他の銀行も設置する。24時間営業で成功した小売店があれば、同業他社も24時間営業にする。デザイン性を重視したスケルトンiMacが売れると、スケルトンのプリンターが他社から発売される。
しかし、片方だけならリスクも少ないが単発的なプラスアルファ程度の売上増加にしかならない。アイデアと具現化の2プロセスを実行して初めてイノベーションと言えるのである。なぜなら、イノベーションは大きな市場を手に入れることが目的であり、時流を読んで変革できる体質を組織に組み込むことも含まれているからである。一回や二回の売上増加を目的として行うものをイノベーションとは言えず、継続的に次々と製品・サービスを創り出せる組織になることが重要である。
それは右肩上がりの拡大経済ではなくなった中で、アメリカや日本企業が共通して抱える問題への解決策であるが、アメリカではインテル、アップル、GEなど大企業をはじめとして多くの企業がイノベーションの組織的アプローチに取り組んでいる一方で、日本ではあまり積極性は見られない。ものづくりに対する過去の成功体験が大きすぎるのかもしれないが、工業化時代の終焉に伴い、従来型のものづくりでは競争力を保つことが難しくなり、イノベーションというアプローチの導入が将来を分ける事になる。
イノベーションの分類
企業におけるイノベーションは、そのプロセスによってA)発明型、B)改良型と分類すると分かりやすい。
A)発明型は、青色発光ダイオードやWindows、MacOSのような画期的発明を生みだすようなプロセスである。もちろん、突然生みだされるわけではなく基礎研究や前身となる製品がある。このタイプは、世界を変える程の影響と莫大な利益をもたらすが、コストも莫大である。
B)改良型は、既存の製品を、使用者の観察、概念の見直しなどによって次々と改良していくことによって全く新しい製品として生みだすプロセスである。単なる機能強化や付け足しといった改良ではなく、あくまで新しい視点や発想を元にしたものでなくてはイノベーションではない。さらにマーケティング面で「こちらの方が優れている」といったメッセージではなく、「新しい経験を提供できる」といったメッセージに到達できるようになるまでの改良である。改良の対象何も自社製品ばかりではない。iPodがこのタイプである。
A)発明型は、莫大な成果を期待できる一方で、個人の専門能力に依存する。数年間も研究を行うような予算がとれる企業であればいいが、通常はそうもいかないだろう。となると、現実的には、B)改良型を意図的に組織に組み入れる事ができればいい。
イノベーションの実行プロセス
従来の製品・サービス開発プロセスは、事業計画を作成して予算を決定、設計や生産といった流れを辿る。組織の中でシステマティックに処理していけるためリスクも少なく、販売見込みも立てやすい。しかし、創造性を発揮することは難しく、新しいものを生みだすよりは従来の延長の当たり障りのないものになる仕組みでもある。イノベーションの実行プロセスは、それよりも機動的というのが特徴だ。プロセスは下図のようになる。

「専門分野」・・・製品技術やマーケティング部門など、各分野の専門家チームを組織する。
「観察」・・・専門チームが、製品・サービスを使用している現場を直接観察する。単なるモニタリングではなく、製品をどこから取り出すかや、どの機能を最初に使うか、何をしようとしているかなど、客観・主観両サイドの観察を行う。それを元に、改良点はどこか、新しい基軸として切り直せる概念は何かなどを決定する。
「コンセプト」・・・開発・販売のコンセプトを決定する。新しく生まれる製品・サービスの理念や、それがもたらす状況、現実世界をどうより良くするかを明示的に文章でまとめ、チームのメンバーが共有する。
「試作」・・・コンセプトに基づいた試作品を作る。
「検証」・・・実際に試作品を使用してもらい、新たな改良点を見つけ、試作を繰り返す。
つまり、一回の工程で開発して販売までするのではなく、インスピレーション(着想)を得るための観察、開発と商品化のためのコンセプト、迅速なテストとさらなる改良といった、「人間が実際に感じる感性を元に」することになる。イノベーションの実行プロセスとは顧客主導の開発であり、イノベーションというと難しいように思えるが、要は短いサイクルのプラン・ドゥー・シーである。
当然だが、このプロセスさえ導入すればイノベーションが起こるという問題ではない。結局は、こういったプロセスに転換できる組織と、視点や発想を持った人材を養うことで、企業が新たなフロンティアや競争力を手に入れることに大きなメリットがある。これが、イノベーションは製品開発ではなく経営手法だという所以である。
では、このような組織への転換を阻害する要因は何か、また企業に利益をもたらす思考や発想を養うためには何をするべきかといった点へ話を繋げていきたい。


