経営手法『イノベーション』を採用せよ!
  2008年3月30日

「イノベーションとは何かと言われれば、それは経営手法である。」

イノベーションが重要だというだけの言葉はもう聞き飽きた。技術志向やコスト削減だけで成長を続けることができない時代、そろそろ本気で人間の創造性をビジネスに適用する必要がある。イノベーションとは何かと言われれば、それは経営手法である。

技術革新ではない
今まで何度イノベーションという言葉を聞いたことだろうか。ロンドン・エコノミスト誌が「いまやイノベーションは現代のあらゆる経済圏において最も重要な要素と見なされている」と宣言し、多くの企業経営者が最重要課題として挙げているにもかかわらず、イノベーションほどその扱いが二分しているものはないだろう。GoogleやiPodなど革新的な製品を生みだす企業がある一方で、何年経っても棚上げされ続けている企業もある。

その理由の一つには、イノベーションの意味の不透明さに戸惑うと言うことがある。いつの時代も、経営の基本は売上からコストを引いた利益である。何のためにいくら金を使うかが経営判断のはずで、コストも成果も不透明で管理できないイノベーションが会社の先行きを左右するというのは信じたくない、というのが経営者の素直な意見だと思う。特に日本企業ではリスクに対する回避傾向が強いので、その重要さは認識していたとしても、投資が無駄に終わる事を怖れて積極的に取り組む事が難しいものと思いがちだ。

しかしこれは間違いである。イノベーションを「研究開発」「新技術採用」のような従来の経営の枠組みで捉えてしまっている典型的な誤解と言える。確かにいつの頃からかイノベーションは「技術革新」と翻訳されたりするのだが、イノベーションとは本来「発想を促す組織作り」のことであり、莫大なコストが必要なわけでもない。大企業や製造業だけが取り組むべき課題でもない。

イノベーションをイノベートする
イノベーションという英語と、技術革新という日本語が事態を複雑にしているように思う。そもそもイノベーションは創造力と具現化といった実行プロセスであり、形式主義からはかけ離れたものだ。iPodやGoogleの新サービスが、分厚い企画書の山と、長くつまらない会議と、社内を100周するくらいの稟議書を経て作られたと思う人はいないだろう。技術革新への注力が重要だという経営方針を、全社員に向けていくら叫んでもイノベーションは起こらない。

技術革新などという堅苦しい言葉は捨てて、ここでイノベーションを正しく日本語に置き換えよう。

イノベーションとは「わくわくするような新しいもの」であり、イノベーション・マネジメントとは「それを生みだす人作り」のことである。

製品ばかりではなく、スターバックスのようなカフェでも、アスクルのような専門サービスの業界でも「わくわくするような新しいもの」が強い競争力と高い利益率といった強い組織を生むことになる。

既に手元にあるiPodと同じものを作れと言われれば、技術力の高い日本企業なら作れないことはないだろう。iPodから聞こえてくる音楽は、他の携帯型音楽プレイヤーと違うものだろうか?もちろん、全く同じ音質のものだ。イノベーションとは外見上のデザインでも、特殊な技術を指すわけでもない。iPodはiTunesと共に提供されているからこそ意味を持つ。従来の「外で音楽を聞く」という概念を打ち壊し、「CDライブラリを持ち出す」という経験を作り出した。これは技術志向ではなく、経験志向から生まれたものだ。iPod以前の携帯型音楽プレイヤーは、リッピングやMP3コンバートといった複雑なコンピュータの操作と、限られた容量に入れるための選曲に多くのユーザーは不便を感じていた。アップルは観察からこれらが問題だと設定して解決するとともに、1曲からでも買える流通の仕組みを取り入れて、全く新しい体験を生みだした所がイノベーションと言われるポイントである。このことから分かるように、イノベーションというものは技術部門やマーケティング部門といった分野別の研究開発では不可能なことの実現を目的とした経営手法である。

消費者や顧客、従業員が持つ期待感や好奇心といった「人間の心理・行動観察を元にした活動」がイノベーションの実体で、だからこそ、生みだされた製品・サービスは注目を集めることができる。

究極の人材投資
このような心理面は、MBAなどのビジネススクールが最も不得意な部分だ。MBAは過去の事例を普遍化して、現在の状況を「分析」することを目的としているため、これから起こることや、普遍化できないこと、突拍子もないことは学問として成立しない。MBAホルダーを1万人集めてもiPodというアイデア・発想は生まれないだろうが、たった1人の型破りな人間が導くことでiMacやiPodが生みだされるのである。「イノベーションによって高付加価値を生みだし、競争力を強化する必要がある」というような無味乾燥な事を言っていても時間の無駄であり、官僚的な組織や硬直化した組織ではイノベーションは絶対に起こらない。経営者が発想力や創造力を発揮できる仕組みを作り、「思考の自由」を手に入れた人間がいるところにイノベーションは実現する。経営者であればもっと直接的な方法論を好む方が多いかもしれないが、残念ながら創造力に定石やハウツーというものはない。ただ仕組み作りがあるだけだ。これは馬を水辺に連れて行くことはできるが、水を飲ませることはできないのと同じ理由による。

ピーター・F・ドラッガーは『実践する経営者』でこう言っている。「賢明な企業は、イノベーションを生むのは、金ではなく人であることを知っている。イノベーションのための仕事では、量よりも質のほうが重要だからである」

企業が置かれている環境は、従来から続いた生産・販売というスキーム自体がグローバル化、フラット化する経済システムの中で崩れつつある。だからこそこぞって大企業がイノベーションと言い出しているのであり、もっと身軽な中小企業では大きなチャンスとなる。

(ideatimes)


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